Tech Summit 2018: 三越日本橋本店の「デジタル×おもてなし」で小売業混沌の時代を突破する!
2018-11-30
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斬新、革新、イノベーション!

そんな言葉を並び立てれば、浮かんでくるのはApple、Amazon、Netflixとやっぱり海外企業に押され気味。いやいや、ちょっと待ってください。江戸時代に新しすぎる切り口で町人をアッと言わせたお店があったはず……

と、脳内で戦っている、GBAの奥山です。

今回もTech Summitのビジネストラックより、デジタルトランスフォーメーションを成し遂げた日本企業のセッション内容をご紹介させていただきます。

345年間、常識破りのビジネスでお客様をアッと言わせ続ける日本の老舗、皆様思いついたでしょうか? ヒントはどうしてか「お主も悪よのぅ……」と悪代官に言われるイメージが定着してしまった呉服屋さん。

そう、今回ご紹介するのは越後屋さん改め〈三越〉です!

しかし皆様、誤解なされまするな。〈越後屋〉は越後の国から出てきた商人なら誰でも名乗れますので、このセリフの越後屋さんと三越百貨店に直接的な関係はございません。三越はお客様第一主義、〈まごころの精神〉をモットーに、345年間お客様のニーズに全身全霊で答えてきた老舗百貨店でございます。

〈老舗〉と〈イノベーション〉の二言を隣に並べて考えるのは中々難しいのですが、三越といえば反物単位での販売や、値切られることを想定しての高めの価格設定、お客様のお屋敷への訪問販売が主流だった江戸時代の呉服界で、切り売り、定価、店先販売を始めたザ・イノベーティブカンパニー。ちなみに現銀掛値なし(現金掛値なし)といって始めた定価販売は日本どころか世界初です。

実はプレゼンスライドの作り方に私はアッと驚かされました。失礼ながら老舗百貨店といえばイメージ的にもお堅い古臭い感じの資料が出てくるのだと思っていました。しかし出てきたのはスティーブ・ジョブズと同じく、最低限の文字数に、ビジュアルで見せる作りのスタイリッシュなスライド。これだけで、なるほど、DXに成功した企業……と妙な説得力がありました。

そろそろ三越とAppleが皆様の脳内で並び始めた頃合いでしょうか?

しかしAmazonや楽天などのECが当たり前となった現代、日本では脱百貨店が進んでおります。

どうにか打開策はないものか、お客様の心を取り戻す道はいずこ……

そんな三越が掲げたのが――

デジタル×おもてなし

テクノロジーを利用してリアル店舗の価値を最大化させるというコンセプトです。

まごころの精神は保持したまま、お客様との接点を今までと変えて〈いまだけ、ここだけ、あなただけ〉という一期一会を提供しようと決断したのです。「『いつでも、どこでも、誰でも』のデジタルの真逆を行っていますね」と三越日本橋本店長の浅賀さんは苦笑気味に言いました。市場の主流に逆らう驚きの三越、再来です。百貨店はハイテクでお客様を圧倒するビジネスではありません。デジタルは裏方に、と考えた三越はまず社内IT化を目指しました。スケジュールの共有にOutlookを、商品・店内情報の共有にYammerを、申請などの業務のデジタル化にTeamsを。こうして経費、時間の削減に成功。デジタル申請は用紙削減率99%を達成、時間はなんと30分から2分まで短縮できるようになったというのですから、DXの強みを今一度思い知らされますね。

また、ショップの垣根を超えた提案をすることで、スムーズでシームレスなお買い物をお客様に提供する新システムを確立しました。ここで非常に興味深いなと思ったのは、従業員の年齢層が高いという百貨店特有の問題。デジタル化に乗り気でなかった社員も、まずは身近なところからと社内情報共有にYammerを使い始めたところ、TwitterやFacebookなども似たようなものだからできそうだと自信を持ち、それまで上手くいっていなかったお客様への広報活動にすんなりと繋げられたのだそうです。

身近な業務のIT化というワンクッションを挟んで、外へと拡大するデジタル適応プロセス。急速に高齢化している日本社会の明るい将来の為のいいヒントに思えます。従業員の年齢層が百貨店ほど高くはなくても、伝統的なビジネスや、ルールが厳しくデジタル化に中々踏み出せないビジネスなどであっても形を変えて適用できそうですね。Lift& Shiftでお客様のクラウド化を手助けするFixerにとっても遠い海の向こうの話ではございません。クラウドで何をするのかではなく、どうしてするのかを周知し、企業全体の理解を得るのがDX成功へのカギでしょうか?

さて、裏方に置かれたデジタルの影響は、表にも色濃く出ています。

近未来的な新デザインの内装でも和の心は忘れずに、旅館をイメージして玄関では迎え花、受付では着物の女将がお出迎え。そんな10月にグランドオープンされた日本橋三越では、パーソナルショッピングデスクというシステムが導入されました。今までショップごとにいた販売員が、お客様一人一人にコンシェルジュとして付き、個別にお話を聞いて、ブランドやアイテムの垣根を越えたトータルコーディネートをします。この新システムで三越は〈人〉、〈環境〉、〈サービス〉のすべてを繋げる、次世代百貨店となったのです。

この〈すべてを繋げる〉というアイデアが三越の改革に大きく貢献したような気がします。Fixer内でもクラウド導入・監視・運用から、金融向けクラウド、はたまた今回のイベントでハンズオンセッションを行ったAIを用いた次世代コンテンツマネジメントシステムなど様々なカテゴリーでプロジェクトを行っておりますが、それらを組み合わせ、繋ぎ合わせ、Fixerだからこそできるおもてなし、Fixerだからこそ応えられるお客様のニーズというものの確立こそフルマネージドサービスプロバイダーの神髄かもしれません。〈いつでも、どこでも、誰とでも〉というデジタルの繋げる力を最大に生かし、企業の強みを集めてコア・コンピタンスに育てあげ、〈今だけ、ここだけ、あなただけ〉のおもてなしをする。急速に変わりゆく世界の中で〈変えるもの〉、〈変わらないもの〉のバランスがこれからどうなっていくのか、気になるところです。