【1台のパソコンで人生は変わるのか】OLPCが埋めた溝
2019-07-26
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昨日のブログ記事にて、小学校のプログラミング教育必修化について、地方の導入準備の遅延が教育格差、そして情報格差を拡大させる危険性について書きました。

そこから派生して、今日は14年前に始まった、プログラミング教育による教育格差や拡大防止プロジェクトをご紹介しようと思います。

すべての子供にパソコンを

日本でも十年ほど前に話題になったようでご存じの方もいるでしょうが、One Laptop Per Child(子供一人に一台のノートパソコン)、通称OLPCというMITの研究所から始まったプロジェクトを知っているでしょうか?

子供一人につき一台のノートパソコンを用意しようという、その名の通りのプロジェクトで、主に経済的に苦しい地域や国などに向けた低価格で耐久性の高いノートパソコンを開発しました。当初は100ドルでの提供を目標にしていたのですが、その後残念なことにコスト面の問題から価格は2倍に……。

北米を中心に数か国限定で販売され、購入者は二台分の料金を支払い、一台を自分に、一台を寄付、という形が取られました(しかし350ドル分ほどの年間WiFi利用権を付与されたり、寄付なので税金対策になったりと、購入者、OLPCチーム、子供たちそれぞれにうまみがあるシステム)。

The OLPC Wiki

OLPCの特徴

低価格であることは大きな特徴の一つですが、それだけではありません。ハードウェアとソフトウェアの両方に様々な工夫を凝らしてあり、どのような環境下の子供でも使えるようなパソコンになっています。

例えば「耐久性が高い」ことは先ほどもちらっと書きましたが、ハードウェアである「OLPC XO」は、万が一壊れた場合、子供でも簡単に解体することができるという点で特別です。異物などを確認したのち、再び組み立て直せるという特色は発展途上国などでは重要になってきます。

インフラ環境が悪い地域のために電力消費量を最低限まで抑えている作りであったり、電灯が少ない地域のために太陽光の下でも見えやすいスクリーンであったり、基地の場所を含むネットワーク状況がビジュアルで確認できるようにしてアンテナを伸ばすべき方向がわかるようにしていたり、普段先進国の人間がパソコンを使っているときには気づかないような細やかな配慮がしてあります。

また、「Sugar」と呼ばれるRed Hat Softwareと共同で開発した独自の子供向けグラフィカルインターフェイスを搭載していて、子供の教育を促進するゲームやアプリなども入っています。こちらのサイトから試すこともできるので、興味がある方は是非! Raspberry Piに乗せたりもできるようです。

OLPCで何ができるか

現在、OLPC XOを個人が入手するのは大変厳しいのですが(大量購入しなければならない)、私は一度これに触れる機会がありました。学生時代の教授がこのプロジェクトの創立メンバーだった縁からですが、大学生でも楽しめるようなアプリがたくさん入っていましたね。

例えば「Squeak eToy」と呼ばれるお絵かきツールを使えば、自分が描いた絵を動かしたりして遊べます。チュートリアルもしっかりしていてわかりやすいので、子供たちが自分の力で学んでいけます。他にも動作が軽いブラウザが入っていたり、「Scratch」が使えたり、考えてみるとこれからの日本のプログラミング教育にも使えそうなツールなのです。

学校に毎日通うことができない子供でも家から勉強できるOLPCは教育格差の溝を埋める新しい方法として斬新なソリューションでしたし、実際国のお札に描かれるほど児童教育において重要な地位を占めるようになりました。

それでもやっぱり問題が

OLPC発表当初、センセーショナルなパソコンの登場に世間はあっと驚きました。もちろんどんなものにも賛否両論あるので、コスト最適化などの面で否定的な意見もありましたが、概ね協力的な声が多かったこのプロジェクト。一体その効果はあったのか……。

このパソコンはそもそも「発展途上国の子供と先進国の子供の情報格差を埋めよう」というのはメインの目的ではありません。「教育を改革したい」というのが主です。

新しい学び方としてのOLPCは、「子供たちが自主的に学習できる機会の提供」という形が一番フィットするのかな、と思っていますが、現状では100ドルPCとはいえパソコンは発展途上国では貴重品ですので、指定の授業時間以外は金庫にしまってしまうなど、使用者のリテラシー面の問題から最適に利用されていないようです。

また、教師が使い方を理解していないので教えられないという、今の日本のプログラミング教育必修化でも課題になっているようなことが言われています。使ってみた人間からすると、直感的に操作できるパソコンですので子供に直接渡してみればその問題はなくなりそうですが、それはそもそも私がパソコンというツールをすでに知っているからこその感覚なのかもしれません。

最後に

新しいソリューション開発では、実際の利用者の知識ではどうなるのかを考えなければならないのですが、知っているという事実を意識していないレベルの知識というのは、こういう場面で判断力を低下させますね。

日本のプログラミング教育についても同じですが、実際の子供の目線で立って、彼らが成長していくためには本当はどのような教育が必要なのか、デジタルネイティブと呼ばれる彼らが生きている時代の常識と、将来の動きなどを視野に入れて考えなければなりません。

弊社のプログラミング教室、Universal KIDSでもその観点を忘れずに、ワクワクを失くさないプログラミング教育を提供していきたいですね。