山田先生のコーチングコラム: 第8回 「死なない」ためのオンライン化と「生きる」ためのオンライン化
2020-08-03
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FIXERにマネージャー向けコーチングを行って頂いているFlora Partnersの山田先生による、企業変革への示唆がある、個人の成長に役立つコラムをお届けします。前回の記事はこちら。お楽しみ下さい!


こんにちは。山田亨(やまだとおる)です。

これを書いている6月下旬時点、一時的なパニック状態もだいぶん落ち着いてきて、各社、ニューノーマルな世界の中で改めて経済活動をどのように展開していこうかというところがテーマになってきています。その中でオンライン対応が進む企業と、元に戻っていく企業も二分化されていくのだろうなと思っています。

こういう時期って、多くの企業にとって逆風で極めて厳しい状況なのですがよく「ピンチはチャンス」と申しますとおり逆に、何かを変えようと思ったときには、千載一遇のチャンスとなっています。その理由は「変えるべき理由」が「コロナに対応するため」という皆が納得できる非常にシンプルなものに帰結させることができるからです。会社の現状に危機感を抱いていらっしゃるリーダーは、この機会を千載一遇のチャンスと捉え、押したり引いたりしながら、いろいろと組織を動かされています。

でも、このような外的要因によってTransformationが加速する場合、変化すること自体はそれほど難しいことではなくなりますが大事なことを見失いがちになることには注意が必要。今回の場合は、(FIXERの皆様には釈迦に説法だと思いますが)「オンライン化の本質ってなんだろう」と問うことは絶対に必要なことだと思います。

少し、自分の業界のお話をシェアさせていただきますので、皆さんも目の前の現実と照らし合わせて考えてみて下さいね。


私の棲む研修業界でも皆、オンライン化への対応を進めています。「対面型研修」は残念ながら典型的な「3密」。特に、ハードスキルを学ぶ研修とは異なり、コミュニケーションとかリーダーシップとか、目に見えないものを扱う研修は、参加者間の対話も大事にしておりふつうにやると存分に飛沫が飛び交ってしまいます。ですので、「今年度は対面の集合研修はやらない」と判断されている企業も多いようです。

そのような状況の中で、研修講師にとってはオンライン化対応はまさに死活問題。Dead or Aliveです。

でも、研修講師が「オンライン化対応できた」っていうのは、「とりあえずは濁流に流されずに済んだ」というぐらいの話でしかなくて、多くの人は本質的な問題を見落としているのだろうなと思っています。

少し話は回り道しますが「メディアこそがメッセージである」と主張し、1960年代に一斉を風靡したマクルーハンという思想家が居ます。彼の主張する「メディア論」では、「メディア(媒体)こそがコンテンツのあり方(中身)を決める」ということで、1960年代のテレビが普及した世情に合わせて世の中に大きな議論を巻き起こしました。

狭義の解釈で説明すると、僕たちは自由にメッセージを伝えられるのではなく、「メディア」こそがメッセージのあり方を決めており、言い替えると僕たちのコンテンツは「メディア」に支配されているというお話です。

例えば最近では、YouTubeの普及などにより、コンテンツの伝達手段が「文字」から「動画」に変わったことで短く、明確に、簡潔に、というのがメッセージの主流になってきていますね。今後、動画のみならず「VR」とかが主役になってくる時代が来るとコンテンツのあり方も大きく変わっていく事になると思われ、そのうちまた脚光を浴びると思いますので、「メディア論(メディオロジー)」という言葉はよかったら覚えておいて下さいね。

さて、研修業界に話を戻しますと「対面」ではなく「オンライン」というメディアでは、双方向のコミュニケーションが作りにくくなる、という制約が出てきます。研修講師は通常、場の空気を感じながら、都度、そこからのフィードバックを受け取りながらメッセージを伝えていくのですが、オンラインではそれが難しくなります。結果、それによって、メッセージの伝え方は、どうしても「対話」や「体験」というよりも「講義」形式になりがちです。そうしたときに、「コミュニケーション」とか「リーダーシップ」とかいった、目に見えないものを扱い、「対話」や「体験」をしながら進めるのがスタイルであった僕たちの領域の研修は、従来のままのあり方では、どうしても価値が下がってしまいます。

ですので、僕たち研修講師は「オンライン時代の研修の価値とは何か?」ということをもういちど再定義して、自分の提供するものの本質を捉え直す必要が生じてきます。

このことについて、とある業界の先輩がこう表現していました。

「これからの研修は『ラジオ番組』みたいになると思っている。」

「このため、自分はオンライン時代における研修で価値創出するために『ラジオパーソナリティ』のあり方を意識している。」

その先輩はこの考え方をベースにチャットやその他ドキュメントアプリなどをフル活用し、参加者からの質問をもとに講義の全体像を形成していくというスタイルでサービスを展開しています。

「なるほどなぁ」というところですが、実はこれ、誰にでもできることではありません。ラジオパーソナリティ風に研修をやるってかなり難易度が高いのです。なぜなら、

・もともとお伝えしたかったラインは踏みつつ、

・参加者から出てくるどんな質問にも答えつつ、

・随時流れを再構成しながらコメントしていくことが必要だから

であり、実際にやろうとするとかなりの力量が必要となります。

こうして考えていくと、私たちの研修業界の文脈における「オンライン化対応の本質」とは、オンライン環境を整えたり、オンラインツールに習熟したりするということではなく、思考の抽象化と概念の理解を深めることを通じて「アドリブ力」と「コメント力」を高めること、そして、どこからでも流れを再構成する能力を上げていくこと、ということに尽きるのかなとおもいます。

以上、長々と書かせていただきましたが、皆様も企業のDXを支援するお立場、単なるツールの提供ではなく「その本質は何か?」と常に考えることでクライアント企業のビジネスのあり方や業務プロセスにまで関われると、価値は高いのでしょうね。

それでは、また。