仮面ライダー。お子様とお父さんお母さんと大きいおともだち向けのこの作品。縁のない人にはあまり知られていないと思いますが、最近の仮面ライダーはシリーズごとにテーマがあります。たとえば探偵とか、電車とか、宇宙とか。
そして記念すべき令和1作目の仮面ライダーとして2019年9月1日に放送開始し、現在も絶賛放送中の『仮面ライダーゼロワン』のテーマは、なんと人工知能(AI)なのです!
私は大きいおともだちとして『仮面ライダーゼロワン』を楽しんでいたのですが、作品中での人工知能の扱いが非常に丁寧で驚いたので、ここでその内容を紹介したいと思います。
物語の舞台はほぼ現代の日本です。1点大きく違うのが、この世界では人工知能を搭載した人型ロボ(作中ではヒューマギアと呼ばれるため、以下そろえます)が実用化され、あらゆる仕事の現場に派遣されているところです。
ヒューマギアの見た目は、生身の役者さんが演じているだけあって完全に人間!そしてヒューマギアっぽさとして共通のヘッドパーツと、体のどこかにQRコードのような模様が印刷されているのが特徴です。
社会構造もちゃんと考えられていて、「飛電(ひでん)インテリジェンス」という、ヒューマギアの製造や派遣サービスを行う大企業があったり、ヒューマギアの違反を取り締まる内閣官房直属の「対人工知能特務機関A.I.M.S.(エイムズ)」という組織があったりと、大人っぽさ満載です!
第一話「オレが社長で仮面ライダー」の冒頭は飛電インテリジェンスのプロモーションビデオのようなシーンで始まります。社長が視聴者に向けて
「人工知能搭載人型ロボヒューマギア。物体認識の技術によって私が誰であるかを認識し、自分で考え行動するのです」と説明したあと、椅子に座っているヒューマギアにむけて
「おはよう」
と挨拶すると、ヒューマギアが相手が誰かを判別して
「おはようございます。飛電 是之助社長」
と返すという、画像認識と自然言語処理がバリバリに駆使されたシーンで、最初に見た時は「めっちゃなんかのイベントでありそうなやつや!」と非常に動揺しました。
そしてこの作品で特筆すべきは、AIを導入した社会でおこるであろう問題が丁寧に描かれているところです。
まず、現実の日本でも去年よく言われていたのが「AIが発展すると人間の仕事が奪われる?」というもの。『仮面ライダーゼロワン』では、なんと第一話で、主人公自らが、ヒューマギアに仕事を奪われてしまいます!(涙) 主人公の夢は「みんなを笑顔にするお笑い芸人」なのですが、不幸なことにお笑いのセンスが壊滅的で、売れないピン芸人にとどまっています。そんななか、かろうじてあった遊園地の舞台の仕事でも全然うけず、支配人さんから「時代はヒューマギアだよ。キミより笑い取れるやついるから」とクビになってしまいます。「人工知能に人間のお笑いは理解できないでしょう」と抵抗するも、主人公の目にうつるのは満席のお客さんを前にどっかんどっかん笑いを取る中山きんに君演じるヒューマギア、その名も腹筋崩壊太郎。切ない。
一方、舞台裏では腹筋崩壊太郎がお客さんの笑顔を思い出してにっこりしています。そこにどこからともなくあらわれる悪者!彼らは人類の滅亡をもくろんでいます。そのためにシンギュラリティに達して自我が芽生えたヒューマギアを探し出して強制的に「滅亡迅雷.net」に接続させてハッキングし、怪人化させてしまいます。最初は抵抗するものの、抵抗しきれず怪人になって人間を襲ってしまう腹筋崩壊太郎。あんなに善良なヒューマギアさんが……切ない展開です。
なお、『仮面ライダーゼロワン』では、「シンギュラリティ」は、AIに自我が芽生えはじめた時、みたいな感じで使われています。
また、他の話ではヒューマギアを受け入れる人間側の心理的抵抗も描写されています。第三話「ソノ男、寿司職人」に出てきた寿司職人のご老人は後継者不足に悩んでいるのですが、ヒューマギア導入のご提案に対して「ヒューマギアにうちの寿司が握れるか!」と言ってみたりします。
第八話「ココからが滅びの始まり」では多くのヒューマギアがスタッフとして働いている病院に来た人物が
「気に食わん。どこもかしこもヒューマギアばかり。あんなもんに命を預けるやつの気がしれんな」
とくさし、秘書ヒューマギアが
「しかし統計によれば人間よりもヒューマギアの方が治療や治療技術の精度は高いです」
と答えると
「俺が言っているのは気持ちの話だ!」
と激高したりします。
技術が高くても気持ち的になんか嫌だ、というのはリアルにありそうです。さらには第八話の冒頭では、そもそもヒューマギア開発の発端は人工知能を医療に役立てることが一番の目的であり、その証拠として医療機関で働くヒューマギアの数が一番多い、といったことが紹介され、これもまた世界観として非常にリアルです。しかも医療用ヒューマギアは情報保護の観点で外部からのハッキングを防止するためにローカルネットワークで病院専用のデータセンタで管理しているという話までされていて、世界観の構築精度が高すぎます。
他にも第七話「ワタシは熱血ヒューマギア先生!」ではヒューマギアが部活の先生をつとめていて生徒たちは大変慕っているのにたいし、人間の教頭先生が「ロボット教師」と呼んでなにかと反対してくるとか、そういう話もあります。しかもその時に主人公が先生ヒューマギアをかばって「教師ヒューマギアとして正しいラーニングの結果です」と言うのですが、話の流れとして非常に泣ける台詞となっている上に、「ラーニング」の近くに「教師」という単語を持ってくるのが小ネタが効いていて油断できません。
と、なかなか終わらなさそうな話になってきたのでこのへんとしますが、いかがでしょうか。『仮面ライダーゼロワン』の「ただものではなさ」が少しでも伝わったら幸いです。
こんな「AI」や「シンギュラリティ」といった世界観に溢れた『仮面ライダーゼロワン』で育った子供たちが大きくなった時に、どんな社会になっているのか楽しみです。
そして『仮面ライダーゼロワン』は現在第九話まで放送されています。仮面ライダーの話数はだいたい50話前後なので、まだ5分の1も進んでいません。つまり、まだまだ間に合います!
これを読んで興味を持たれた方は、ぜひ次の日曜日の朝9時に『仮面ライダーゼロワン』をチェックしてみてください!ちなみに、もう30分早起きして『スター☆トゥインクルプリキュア』から見始めるのもおすすめです☆