パーパス経営
2021-12-13
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「パーパス経営」とは

「パーパス経営」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本経済新聞で2021年11月29日から5日間、朝刊一面で「カイシャの未来」と題し連載されていましたので、そこで目にされた方も少なくないでしょう。

パーパス(Purpose)という名の通り、パーパス経営とは自社が何を目的として存在するか、存在意義を明確化し、それを軸に企業活動をするという考え方であるとされています。ただこれを聞いても、これまで何度か目にした似たようなビジネスワードの焼き直しではないか、と感じる方もいるのではないでしょうか。

ミッション、ビジョン、バリュー、ESG、SDGs。そうした方は、こうした「横文字」はよく目にするがそれらとどう違うのか、もっと言えば会社がどう変わるのかちっともイメージできない。と思われることでしょう。

1600年東インド会社の設立を起点に始まった資本主義。特に近代に入り資本主義が優れたイデオロギーとして社会に豊かさをもたらしたことは間違いありません。しかし、資本を主役として再生産を繰り返すことが富の偏在を生み、これからも成長を果てしなく追求し続けることが本当にあるべき姿なのか、問い直す考え方が広がってきています。そこから「パーパス経営」という考え方が生まれました。

名和高司氏は著書「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える(東洋経済新報社)」において、「パーパス」を「志」と訳し、志を基軸とした志本主義と呼んでいます。

社会への貢献を目的として禁欲的労働を肯定し、資本主義の考え方と結びつき近代の発展の原動力となったプロテスタンティズムが、欲望を追求する一元的なキャピタリズムにもはや変質してしまった。個人主義・利己主義・科学至上主義ではなく、全体と個を一体として見る「和」の思想、利他的な志がこれからの成熟した共在性の世界に不可欠である、という考え方のもと、パーパスとは志である、とわかりやすく読み替えています。

これまでのビジネスワードの課題と「パーパス経営」が志向するもの

氏は、先に上げたキーワードは以下のような偏りがあると論じています。

  • ミッション、ビジョン、バリューは自己起点か社会に阿る形か、原点回帰か未来志向か、どちらか一方に偏りがちである
  • 環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字であるESGは、投資リターンから生まれた考え方であり、短期的リターンを要求しながら自己統制を求めるガバナンス自体、経営者は株主の代理(エージェント)であるという考え方に根差したものであり、エージェンシー理論そのものに誤謬がある(ガバナンスを第一にしながら企業の不正がなくならないのは誤謬の証左ともいえる)
  • Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)として17の大項目、169の小項目を定めたSDGsは与えられた「規定演技」であり独自性はなく横並びにしかならない

※非常に短く要約していますのでピンと来ない方はぜひ書籍をお読みください

それに対し、パーパス経営は、「ワクワク」「ならでは」「できる!」という三つの共感要件を満たしていることであるとし、ミッション、ビジョン、バリューを、Purpose(志)、Dream(夢)、Belief(信念)に置き換え、社員一人ひとりの心の奥底から湧き上がってくるものにしなければならない、と述べています。

社員が共感し、社会的意義を実感する組織へ

ここまで読み進めても、なお、こうしたビジネスワードに懐疑的な方もいらっしゃるでしょう。

ただ、上司にロジカルにもっともらしいことを言われても釈然としないが、心の底からの思いをもって伝えられた言葉であれば、「やってみよう」という気持ちになった、という経験を持つ方は多いでしょう。評価やお金が最重要ではなく、仕事の意義を大事にするという考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。特にミレニアム世代といわれる20代の方は、利益ではなく価値そのもの、HowではなくWhyを重視する感覚を備えている、と言われます。

パーパス経営にも取り上げられている野中郁次郎氏が共著で2010年に発行した「MBB:「思い」のマネジメント 知識創造経営の実践フレームワーク」 では、MBO(Management By Object、成果主義)に対抗して、MBB(Management By Belief、思いのマネージメント)が大事である、としています。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、2014年の就任以来、同社の資産はWindowsやOfficeといったソフトウェアではなく、それらを踏まえ構築してきた企業ブランド、顧客ベース、パートナーネットワークなどの無形資産であるとし、有形資産を守る企業文化から、過去の成功体験をアンラーン(脱学習)し、学習シフトを行ったとされています。ソフトウェアの会社からクラウドの会社へと変貌し、大変革を遂げたことは言うまでもありません。(「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える(東洋経済新報社)」 P327~329を要約)

同CEOは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」と定めました。(日本経済新聞 2021年11月29日朝刊一面より引用)もちろんこれだけで変革を遂げたわけではなく、無形資産を生かし、そのうえで行動原理を「リフレッシュ」する挑戦する企業文化へアップデートし続けていきました。そこにはイノベーションのジレンマに陥らないよう従来型組織の良さと柔軟性に富む体制とをバランスさせ、トランスフォーメーションを推進する変革人材(DXのDではなくX(トランスフォーメーション)の方)を育てていくことが必要になると、名和高司氏は著書で述べています。

(関連記事:「DXの「Digital」ではなくて「X」の話」

自社のパーパスは何か、だけを定義しても会社は変わりませんが、社員が共感できる会社の存在意義を定め、それを軸にすべての活動、コミュニケーションを変えていくこと。これまで蓄積した信頼やノウハウ、ブランドといった無形資産を生かしつつ、常に変革を続けること。志に根差し全体と個人とを共生していくこと。財務諸表や経営指標を見てもハカることができないこうした要素が、これからの真の企業価値となっていくことでしょう。