メタバース論ことはじめ

こんにちは、岡安です。Advent Calenderの波に乗って、久々のブログとなります。

2021年のテクノロジー流行語大賞があれば、間違いなくメタバース(metaverse)はノミネートされることでしょう。10月28日、FacebookがMeta(正式にはMeta Platforms, Inc.) に社名変更することを発表しました。同社の見立てによればメタバースには1兆ドルのビジネスチャンスがあり、今年だけでも100億ドルの投資を行っているととのこと。

ここ数年、XR(Virtual Reality、Augmented Reality、Mixed Reality……)については、工学の領域だけではなく、医学・介護への応用、教育・学習への応用、そしてDigital Transformationという経営イシューまで、さまざまな角度から論じられてきました。今日はまだまだ混沌のカラオケ大会の中にあるメタバース論について、あくまで自分の視野の範囲内ですが、アカデミックな研究の可能性について、ちょっとずつ論じてみたいと思います。

※ 文字ばっかりになっちゃいました。後から図が追加されるかもしれません(苦笑)

メタバースの潮流 (コンテンツ文化史的な視点)

メタバースの語源は1992年のニール・スティーブンソンのSF小説『スノウ・クラッシュ』であると言われていますが、名前は付けられていなかったものの、その以前から類似の概念はいくらでもありました。任天堂のファミリーコンピューターの発売が1983年ですから、アラフォーの人なら思いつくゲームなどいくつかあるでしょう。むちゃくちゃ拡大解釈して単純に言えば、マリオブラザーズで邪魔しあうのも、アイスクライマーで落とし合うのも、メタバースといえばメタバースな気がします。

国内で見る限り、ゲームではなく仮想空間で「生きる」サービスとして現れたのは1990年に富士通が出したHabitat(ハビタット)が最初と言ってもいいようです。これはパソコン通信であるニフティサーブのユーザ向けに提供されていたアバターチャットサービスですが、それぞれのユーザが家を持ち、市長を選挙で選ぶという、空間の中における生活の要素がかなり織り込まれていました。

そして、2003年にはリンデン・ラボからおなじみ「Second Life」が登場、さまざまな企業が土地を買って店舗を建てたり、広告を出したりするなど、メタバースにおける経済活動が行われるようになりました。しかしながら、盛り上がりは長く続かず、サービスは継続されているものの、少なくとも日本においては「あの人はいま」的な状態になってしまっています。

実際の経済活動という意味では、大規模オンラインゲーム(MMO)における課金こそが現役選手かもしれません。グラフィックの品質も高く、自らのアバターのカスタマイズ性も高い。そして、一緒に冒険するという共通体験がコミュニケーションを活性化し、滞在時間も長いです。その結果、オンラインゲームで出会った相手と結婚したといった話も決して珍しくありません。一方、ネトゲ廃人という言葉も生まれましたが……。

このようにエンタメ文脈中心に語られてきたメタバースが、COVID-19以降はビジネスの文脈で語られるようになってきました。Teamsやzoomのようなオンライン会議のソフトウェアが一般化し、ハードウェアやネットワークも整ってきました。メールベースのコミュニケーションに比べ、オンライン会議は多くの情報を伝えるメディアですが、リアルならではの偶然性や、ちょっと話しかける気楽さといったものを犠牲にしています。こうした課題を解消する一つの鍵がメタバースであるというアイデアから、バーチャルイベントやバーチャルオフィスといったソフトウエア・プラットフォームが出現しました。

現在のメタバース論はMMOのようなエンタメから発展してきた潮流と、COVID-19以降のニューノーマルの潮流の合流点にあると言ってよいでしょう。

メディアとしての「メタバース」

メタバースはエンドユーザ端末、ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク、コンテンツといった要素で構成される複合的なメディアです。メタバースは、ユーザ間の広義のコミュニケーション(言語・映像・金銭……)を媒介します。

メディア研究の古典といえば、カラーテレビが最先端メディアであった1967年に書かれた、マーシャル・マクルーハンの『メディア論』です。現代の多様化したメディアの存在をあたかも余地していたかのように、極めて一般化されたメディア論を展開しています。

同書で一番有名な一節が「メディアはメッセージである」という言葉です。愛を伝えるのが手紙なのか、電話なのか、メールなのか、SNSなのか、動画なのか……それ自体が一つのメッセージを帯びています。また、TikTokでショートムービーを発信することは、発信者が若者であること、もしくはコンテンツが若者向けであることを、暗にメッセージとして発信しています。50年以上前に、よくこんなことを考えたものです。

また、マクルーハンはメディアを身体・精神の拡張であるとも述べています。例えば電話により、遠く離れた人と会話できるようになり、TVの出現により、家に居ながらにして地球の裏側の景色を見られるようになりました。おそらくメタバースは、身体・精神を多層的な並行世界に到達させます。これは、まだ誰も行ったことのない領域です。

メタバースがメディアとしてどのようなメッセージを伝えるのか、それは周辺のメディアとしてどのように結合していくのか、そして人間の身体・精神をどのように拡張していくのかは、まだまだ見えません。サービスの出現・高度化に合わせて、このあたりをきちんと論じていくことで、少し未来が見えるような気がします。

社会・経済システムとしてのメタバース

メタバースは社会学や経済学といった社会科学においても、興味深い研究対象となることでしょう。世界を社会・経済システムとして見たときに、メタバースの出現がどのような変化をもたらすのでしょう。従前のメタバースは、あくまでエンタメ領域のものである、流行が短期に終わっているといった理由で、国家レベルの社会・経済に対する影響はほとんどありませんでした。今後、本当にザッカーバーグの言う通り100兆円の経済圏がここに生まれるのだとすれば、小さくない影響が生まれます。

必ずしもアカデミックな論考ではないですが、2001年の大前研一氏の小論『見えない大陸』は、経済空間を「実体経済」「ボーダレス経済」「サイバー経済」「マルチプル経済」に分割して考えています。詳細を書くとそれだけで記事になってしまうので省きますが、これを今日のコネクティッドな世界に適用すると「サイバー経済」において高速に「マルチプル経済」的な取引が繰り返され、仮想通貨のように指数関数的な価値変動が起こりうる投機対象が生み出されます。こうした価値の暴走をどうコントロールするのか、ルール作りからの大きな課題といえます。

こうした背景にある技術が、いくらでも複製可能であるデジタル世界において、データの真正性・唯一性を担保するのがNFTです。こうした技術進歩が、メタバースをただのエンタメに終わらせない「何か」に押し上げつつあるような気がします。

DXにおけるメタバース

Microsoftは11月2日に行われたIgnite 2021において、バーチャルコミュニケーション基盤の「Mesh for Teams」を発表しました。説明文をそのまま訳して記しますが

パーソナライズされたアバターと、没入できる空間を通じて、一緒にいるような感覚で相手とつながり、コラボレーションできます。次世代の2D/3Dミーティング空間で、創造的に会話し、セレンディピティを強化します。

Mesh for Microsoft Teams

 ということで、ばっちりメタバースです。Microsoftはオンライン会議の限界を

どこからでも仕事をしたり、オンラインで同僚とつながったりできるのは素晴らしいことですが、リモート会議は「非人称的」であり、人間関係やキャリアを築くための小さな瞬間を見逃している可能性があります。

Mesh for Microsoft Teams aims to make collaboration in the ‘metaverse’ personal and fun

と述べており、実際にグローバルに展開するコンサルティング会社は、ニューヨークにあった研修センターの機能をMesh上で実現し、毎年新たに雇用する10万人に対し研修を行う取り組みを始めているとのことです。DXにおけるメタバースの役割として最も大きいのが、こうした社内コミュニケーション変革なのでしょう。

その他、XRにおけるDXというと、ヘッドマウントディスプレイを使った現場業務の効率化や、オムニチャネルによる顧客エンゲージメント強化、デジタルツインによるシミュレーション……といった様々なトピックがあるのですが、さすがに長くなりすぎたのでまたの機会にしたいと思います。

おわりに

ということで、メタバースについていろいろな角度からちょっと語ってきました。COVID-19によるさまざまな変化の中には、可逆なものもあれば、不可逆なものもあります。おそらく、僕たちはリモート会議のない世界には戻れないでしょうが、旅行やフェスに人は戻りつつあります。メタバースによって何ができるか、何ができないか。技術の進化と共に変わるその基準を見つめながら、みなさんのお役に立てることがあればと思っています。ありがとうございました!

参考文献

マーシャル・マクルーハン『メディア論―人間の拡張の諸相』(1987、みすず書房)

DIAMOND ONLINE “フェイスブック、マイクロソフト、アクセンチュア…「メタバース」ブームは本物か” (2021)

大前研一 “見えない大陸: 覇者の条件” Diamond Harvard Business Review (2001)

FIXER Inc. 岡安 英俊
  • FIXER Inc. 岡安 英俊
  • ボストン コンサルティング グループ (BCG)、東京工業大学特任講師を経て、FIXERに入社。戦略部門の責任者として、戦略および計画の立案・新規事業立ち上げ等をリード。いまのイチオシはメタバース(metaverse cloud)です! サービス・プロダクトを通じてクライアントのDigital Transformationの真の原動力となるべく、テクノロジーライフを日々楽しんでいる。2匹のねこ (白のみるくと黒のくらうん) と楽しく暮らしています。