小学校のプログラミング教育必修化は教育格差を広げるのか
2019-07-25
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小学校の「プログラミング教育」必修化まで一年を切りましたが、準備不足やコンセプトの誤解など、色々なところから悲鳴が漏れ聞こえ始めている今日この頃。

Universal KIDSというMinecraftを主に使った子供向けプログラミング教室を田町で開いているFIXERとしましても、一体学校は何を目的として指導をするのかを視野に入れてコンテンツを作成しなければならず、また、プログラミング教育が始まった時のために教員向けのセミナーなども行っておりますので、プログラミング教育必修化問題は他人事ではありません。

何が問題なの?

  • 「そもそも何をすればいいの?」という趣旨に対する理解度の不足。
  • 「誰が教えられるの?」という教える側の技術力や知識の不足。
  • 「明確な授業のコマ数や全国共通での最低限の内容は?」という明確な授業要項の説明不足。
  • 「プログラミング教育を始めるにはお金がかかる」という地方を中心にした予算不足。

文部科学省が「Scratch」を使った教材などをウェブサイトで公開してサポートをしているようですが、正直これでは足りないような気がします。

特に重要なことが、地方を中心にした予算不足の問題です。

そもそも必修化は来年度からですが、すでに授業を行っている教育委員会は52%と過半数。しかしそれは都市部が中心で、町村部のパーセンテージは半分以下のようです。

米国、Segregated Schoolの教育格差

教育格差というと、日本は表面上、他の国よりは教育格差がない均一な環境に見えます。

例えばアメリカではSegregated School(隔離された学校)と呼ばれる学校があり、人種差別が法律的にあった頃からの名残なのですが、地方自治体自体が常に少ない予算に苦しんでおり、その地域の学校に回ってくる分が少ないので、教育レベルは非常に低くなります。ほとんどが生徒比率において50%以上の高い有色人種率を有し、政府から経済的サポートを受けているような状態です。

Segregated Schoolではない学校との教育レベルの差は明確です。Segregated Schoolは最低限の基礎教育科目しかなかったり、クラブ活動がなかったり、そもそも机や教科書が足りなかったりしますが、その間、一般の学校の生徒は種類の多い選択授業の中から芸術や理数などの科目を通常よりハイレベルにした授業を受けることができ、大学進学などに有利になります。

ちなみにアメリカは高校を含めた12年間が義務教育で受験なし。基本的に住んでいる場所から近いところに自動的に入学するので、個人の学力は公立校の場合は関係ありません(私はひょんなことから学区外の町はずれの学校へ。そういうこともまぁ、あります)。

私が通った高校はSegregated Schoolでしたから、ロッカーを直す予算がないので教科書を置く場所がありません、というわけで今年は教科書を一切使いません、などという突拍子もない解決策が飛び出したりしていました。おかげで地域一斉テストでは「何だこれ? こんなの勉強してるの? 他の学校は」みたいな問題しかでなくて焦りました(それなのに何故かその時はうちの学校が地域でトップになったので人生何が起きるかわかりませんね)。

かと思えばアメリカ出身の同僚の高校は第二外国語が4・5か国語くらいの中から選べたり、学校のオーケストラクラブがあったりしたらしく、高校の思い出話をするとお互い「え? 何のドラマの話?」となります (わかりやすくいうと山田太郎ものがたり vs. クローズ) 。二人とも公立校であるにも関わらず、です。

比較的少ないけれど存在する日本の教育格差

それと比べれば日本の公立校は表面的にはまだ格差が少ないように見えます。日本の教育格差の一番の問題は今のところ、地域的に進学する大学の数や距離に差があるということでしょうか。ですから都心部の進学率が高く、地方は低い傾向にあるのは明白ですね。

しかし教育の実地内容自体は全国でかなり共通していて、流石に机がないから昼夜交代で学校へ登校、などというほど凄まじい環境差はないようです。また、教師についても交代で学校間を移っていくシステムが教育の均一化を助けています。

さて、ここで問題になってくるのが今回のプログラミング教育です。

なんといっても、設備を整えるために高い投資を求められるのがプログラミング教育です。機器の設備から教材費、運用費、支援員の人件費まで考えると、予算が潤沢ですでに教育を始められている地域と、予算確保に問題を抱えていて設置もこれから始めなければならない地域では教育格差、ひいては学力格差が広がっていきます。

IT教育の機会については、地域の財源に差がある以上、学校内だけの問題には止まりません。例えばWiFiや利用できるパソコンが多い図書館へ簡単にアクセスができる都心部の子供と、そうではない地方の子供では、予習復習を含む自己学習の機会に差が出てきます。

さらに一部地域のITレベルの向上は、社会全体の情報格差も広げていくでしょう。情報格差は社会人になってからの貧富の差や、次世代の教育格差にも連鎖していく問題です。

小学校での教育格差は中学、高校、大学と進むにつれ、影響を及ぼしていく可能性が高いので注意しなければなりません。フェアな社会が崩れないようにするには、今、準備に遅れを取っている自治体への手厚いサポートと、明確な指示が必要なのです。

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