こんにちは!
前回のブログで「FIXERが考える『これからのバンキング』」と題して連載を始めます!と宣言してから、第一回目の記事を書くまでにずいぶんと時間を要してしまいました・・我ながら深く反省するとともに、これからは連載のペースを上げてまいります(汗)
さて、改めまして連載第一回目は「バンキングに押し寄せるデジタルの波」と題してお送りします。
テクノロジーの進化に伴い、高い技術力を有するプレーヤーたちが、これまでテクノロジーとは無縁だったバンキングの世界にも「デジタルで稼ぐ」新しい収益モデルを持ち込んできています。
伝統的な銀行がその波を乗りこなし、デジタルを自らの武器とするにはどのようなアプローチが必要となるのか、まずはそのあたりをこのブログで数回に分け掘り下げていきます。
デジタルの戦いは、「可処分時間」の奪い合い
いきなりですが、みなさんは「可処分時間」という言葉をご存知でしょうか。
可処分時間とは「自分の判断で自由に使える時間」のことを指します。(可処分所得になぞらえて捉えると分かりやすいかと思います)
毎年、シチズンさんが可処分時間に対する意識調査を行っていて、2019年の調査結果では日本人全体の一日あたりの平均可処分時間は2時間58分であったとのこと。
このブログを読みに来てくださる方は忙しいビジネスパーソンがほとんどでしょうから、「自分には一日に3時間近くも自由になる時間なんてない!」と思われた方も多いはずです。
確かに、一日3時間も可処分時間があれば、趣味のサークル活動や自己啓発、家族とのコミュニケーションなどをしっかり行うことができます。
しかし、それはあくまで3時間まとまった時間として使えればの話。
現代人のワーク・ライフスタイルでは、可処分時間がまとまった状態ではなく、「細切れ」になりがちです。
仮に一日の合計可処分時間が3時間あったとしても、通勤電車を駅のホームで待つあいだの10分、仕事仲間とランチを取り終えたあとの15分、風呂に入って就寝するまでの30分といった細切れの時間の積み重ねになっていることがほとんどです。
自由に使える時間が細切れになっていると、その限られた時間のなかでこなせることはせいぜい2つか3つ。
仕事のメールをチェックしたり、ニュースサイトでその日の注目記事を流し読みしたり、メッセンジャーアプリで友達と短いやり取りをしたり、、、ひとつの動作にかかる時間は数分であっても、それを3つもやれば細切れに存在する可処分時間の帯は消費されていきます。
この細切れに存在する現代人の可処分時間のなかから、少しでも自社のサービスを使ってもらう時間をひねり出そうと、あらゆる企業が躍起になって日々サービスを磨いています。
モバイルファーストが加速するメカニズム
博報堂DYメディアパートナーズさんが「メディア定点調査」を毎年実施されていて、日本人が一日のうちにメディア媒体に接触する時間と、どのメディアとどれだけ接触したかの内訳を統計データとして公表しています。
2019年のデータを見ると、スマホやタブレット、パソコンといったデジタルなメディア媒体との接触時間が全体の約50%(全メディア総接触時間411.6分のうち205.4分)を占めています。
10年前の2009年は約34%でしたので、現代人のライフスタイルにおいてデジタルなメディアの存在感が確実に大きくなっていることが伺えます。
さらに特筆すべきはスマホ、いわゆるモバイル媒体との接触時間の伸びです。
メディア総接触時間におけるモバイル媒体との接触時間が締める割合は、2009年の約7%から2019年の約29%へと大幅に伸びています。
言うまでもなく、この10年で接触時間が最も増えた(しかも劇的に)メディアはモバイルです。
では、なぜこれほどまでにモバイル媒体との接触時間が増えているのか。
そこには、細切れになった可処分時間との深い関係性があります。
そもそも、現代人の可処分時間を分散させる転機となったのは「メール」と「携帯電話」の登場だと言われています。
メールと携帯電話が世の中に普及した時点で従来の人間の処理能力を超えるコミュニケーションが生まれたそうですが、2007年にAppleがiPhoneを世に送り出し、現代人が処理する情報量はさらに膨張しました。
iPhoneが登場するまでは、たとえば預金口座のお金を他の口座に振り込むにも銀行の支店やATMに足を運び長い列に並ぶ必要がありました。
それがいまは、手のひらでスマホアプリを数分操作するだけで振込が完了してしまいます。
モバイルの普及・進化とともに、このような破壊的な利便性の向上があらゆる業種・業態のサービスで進んでいます。
サービスは便利に提供されるもの、という状態に慣れたモバイルユーザーは「使い慣れた利便性、もしくはそれを上回る利便性を提供し続けるアプリでないと容赦なく利用を打ち切り、他の優れたアプリに鞍替えする」という非常にドライでわがままな行動特性になっています。
そして、その状況を見た企業がモバイルアプリへの投資を強化 ⇒ モバイルアプリの利便性が向上 ⇒ ユーザーはその利便性に慣れ、さらなる利便性を要求 ⇒ 企業のモバイルアプリへの投資が加速、、、というサイクルが高速回転しています。
モバイルアプリの利便性向上は情報処理の手間・時間を圧縮し、データベースがフラグメンテーションを起こすようにユーザーの可処分時間をどんどん分散させます。
可処分時間の分散が進むと、一回に使える可処分時間の帯が短くなるので、ユーザーは短時間で快適に操作を完了できるサービスをさらに求めるようになります。
デジタル、とくにモバイルで提供するサービスで勝ち組になるには、この激しいサイクルに食らいついていく必要があるのです。
個人向けのバンキングもモバイルが主戦場に
こうして、モバイルファーストで新しいサービスが次々と生み出される世の中にあって、バンキングもその例外ではなくなってきています。
バンキングは他のサービス領域に比べデジタル化が遅れていると言われますが、いま最もデジタル化の新陳代謝(イノベーション)が激しく起こっている領域でもあります。
では、誰がそのイノベーションを牽引しているかというと、古くからバンキングサービスを提供している「銀行」ではありません。
異業種、それもデジタルの雄たちが新しいサービスモデルを引っ提げてバンキングの領域に次々と参入し、破壊的なイノベーションを牽引しています。
すでにお話したとおり、デジタルの戦いではユーザーの可処分時間をより長く占有するプレーヤーが有利にビジネスを展開します。
メッセージングやモビリティの領域で大勝利を収めたサービス提供者たちは、生活のあらゆるシーンで利用される便利な機能を次々とリリースし、このアプリさえあれば生活の大半の用事は片付くという状況を作り出しています。
その用事のなかで、サービス提供者の重要な収益源のひとつとなるのがユーザーによる「買い物」です。
買い物を行う際、物(もしくはサービス)と対価の交換、つまり「決済」という行為が必ず発生します。
デジタルの勝者たちは、自らのサービスのなかでこの「決済」行為を数多く発生させ、その手数料を徴収することで多額の利益を獲得し始めています。
さらに最近では、デジタルなサービスのなかで蓄積されたポイントを、そのサービスの外で買い物をする際の支払いにも使えるようになってきました。(例:コンビニでお弁当を買う際、メルカリでの物品売買で得たポイントからメルペイ経由で支払いを行う)
決済は銀行が提供する代表的な機能のひとつであり、銀行にとって重要な収益源でもありますが、銀行が決済から収益を上げるのは預金口座に存在するリアルマネーで対価の交換が行われる場合のみです。
銀行の決済機能を介さない、デジタルなサービス経由での決済頻度が増えると、それだけ銀行の収益機会は奪われる形になります。
その他にも、「送金」(広義では決済の一部)や「融資」といった金融の機能までもが、従来のインフラやオペレーションを必要としない形でデジタルに提供され始めており、銀行にとっての脅威となっています。
一昔前の常識では、伝統的な銀行が有する資産(例:銀行ライセンス、多くの預金口座と残高、精緻な計算を処理できる勘定系システム、預金者がアクセスできる店舗網、コンプライアンスを守るための強固な業務体制)は、銀行業を営むうえで新規参入の障壁と考えられていました。
しかし現代人の生活がモバイル空間にシフトするにつれ、上記のような重厚長大な資産を持つことよりも、モバイル空間での存在感を作り出すことが企業やサービスの競争力に直結する時代になりました。
むしろ、重たい資産や複雑なオペレーションを維持するための高コスト体質は、銀行がスピーディにデジタルへ舵を切る際の足かせにすらなってしまっています。
ここまでの話からは、伝統的な銀行がデジタル化の波に対し防戦一方のように聞こえるかもしれません。
確かに、銀行は厳しい戦いを強いられています。
ですが、バンキングのすべての局面でデジタルなサービスが既存の銀行に勝利するかといえば、個人的にそれは違うと考えています。
大きな方向性として、これまで銀行が提供してきたバンキングサービスの一部、とくに個人向けの領域をデジタルのサービスが侵食し始めているものの、富裕層などの大口個人客や法人向けの領域はまだまだ銀行の優位性が十分に残っていると見ています。
ほぼすべての銀行が全方位的に同じ戦い方でバンキングサービスを提供してきた時代、例えると、相撲のようにバンキングという同じ土俵のうえで力士(銀行)同士が同じルールで戦っていた時代から、異なる格闘技で腕を磨いた格闘家が異なる武器や戦い方を持ち込んで異種格闘技を始めたような状態が、まさしくこれからのバンキングで起こることだと思っています。
ならば、その異種格闘技戦でも力士(銀行)が勝つやり方はあるはずです。
FIXERは、地域の生活に根差し、地域経済を支えている銀行、いわゆる「地銀」のお客様と深いお付き合いがあります。
昨今の外部環境の変化により各行とも収益の確保に苦労されていますが、いくつかの銀行では各地域の特性を活かしながら従来の銀行の枠を超えたビジネスモデルで新たな収益を生み出そうとするチャレンジも始まっています。
FIXERとしては、そういったチャレンジをテクノロジーの力でお手伝いしたいですし、勝つモデルを設計し作り上げるところからご一緒したいと考えています。
このブログの連載が進むなかで、地域に根差す銀行がオリジナリティを出しながら新たな競争優位性をどう生み出していくのか、そのアイディアについてもいくつか触れていきたいと思います。
次回の予告
次回は、「銀行のライバルが銀行だけではなくなる時代」と題し、テクノロジーを武器に全く新しいバンキングサービスで成功し始めているプレーヤーとそのビジネスモデル(従来の銀行とは稼ぎ方がどう異なるのか)を掘り下げます。