DXの「Digital」ではなくて「X」の話
2020-12-25
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 メリークリスマス! FIXERの岡安です。10ヶ月ぶりくらいのTech Blog登場となります。前回のシリーズ物 (長く続くように見せかけて2回しか書いていない……) はどうした、という声もありますが、2020年という激動の1年を通じてお伝えしたいことが出てきましたので、筆を取ることにしました。お付き合い下さい!

 バズワードだからすぐに聞かなくなるかな……と思っていた、デジタルトランスフォーメーションという言葉、なかなかしぶとく残ってますね。そしてDXという、XをX(trans)formationと読ませる日本人には極めて分かりづらい略語も、なぜだか定着してきました。それこそ、稲垣吾郎さんが「DX」をデラックスと読み続ける某社のCMが、ギャグとして成立するくらいには。


Digital Transformationをめぐるあれやこれや


 デジタルトランスフォーメーション、ってなんでしょう。いろいろな人が、いろいろなことを言っています。エッセンスを抽出すると

① 先端的な情報技術 (クラウド・AI・ビッグデータ・モビリティ 等) を活用する
② 単なるオペレーションの改善ではなく、あらゆるレイヤーに変化をもたらす
③ 新しい製品・サービス・ビジネスモデルなどを通じて、新しい価値を創出する

といったところが、最大公約数でしょうか。実はこの中で①だけが「Digital」な要素であって、実は②③は「Transformation」なのです。ではなぜ、トランスフォーメーションという言葉がそこまで市民権が得られなかったのに、デジタルトランスフォーメーションが、大きな顔をして闊歩しているのでしょうか。

 いくつか理由はありますが、本質的にはデジタルを通じた変革に「革新性が大きく、スピードが早く、持続性がある」という特徴があるからなのだと思います。

 第一の理由、デジタルトランスフォーメーションの革新性は、ニューノーマル時代の到来と共に、誰の目にも明らかになりました。Trivialな例ですが、これまではオフィスワークを一部代替する存在だったテレワークは、いつのまにか当たり前の存在になりました。

 デジタルには、使えば使うほど、多くの人が使うほど、その効用が高まっていくという特性があります。この特性によって、世界は「リアルを補完するデジタル」から「リアルとデジタルの共存」、そして「デフォルトとしてのデジタル」へと変容してきました。こうした革新性の高さゆえ、デジタルトランスフォーメーションは既存の価値観とのコンフリクトを生み、時に大きな反発を招きます。このことについては、次節でもう少し細かく述べます。

 第二の理由がスピードです。デジタルという武器を携えた新規プレイヤーが、クイックに既存プレイヤーを駆逐していった事例は、本屋さん(amazon)から靴屋さん(ザッポス)まで、枚挙に暇がありません。リアルの世界では、拡大に必要なリソース――店鋪・物流網・人材などを準備するのに、相応のリードタイムがかかります。一方、デジタルの世界においては、クラウドやAIなどのスケーラブルなリソースが主役。それゆえ、突発的な需要の高まりに対し、タイムリーにサービスを供給していくことができます。

 最後の理由は、持続性です。デジタルを通じた統合化・個別化は、スイッチングコストを高め、継続的な競合優位を生み出します。統合的にサービスを提供することによって、個別のサービスだけを切り出して相見積りを取るといった、価格競争に巻き込まれることが少なくなります。また、長年の利用で自分の好みを知り尽くし、インターフェースをカスタマイズしたサービスから他サービスに乗り換えることは、容易ではありません。

 こうした理由によって「デジタル」トランスフォーメーションが、2020年代のビジネスにおける主役の座に躍り出たのです。


そもそもTransformationって何だっけ


 デジタルトランスフォーメーション以前から「トランスフォーメーション」という言葉は存在していました。日本語の”変革”に当たる言葉は、別にトランスフォーメーションに限りません。例えば、バラク・オバマ元大統領は変革の旗印として、”Change”を唱え続けましたよね。辞書的なTransformationのど真ん中の意味は「変換」です。理系の人は「線形変換」(Linear Transformation)をイメージして下さい。あれって「基準の取り直し」によって「空間全体をぐにょっと変形させる」ことですよね。経営の文脈におけるトランスフォーメーションのイメージもそれと同じ、新たな価値観に基づいて全社を変えてしまうことです。

 トランスフォーメーションという言葉が大好きなのは、コンサルタントです。コンサルティングビジネスの世界では、個々の問題を解決するプロジェクトを細かく売るよりも、それらを組み合わせた全社変革プログラムとした方が、プロジェクトの規模=売上も大きくなりますし、リピートにつながるインパクトが出る確率も高まります。

 20年近く前、コンサルティング会社のBCGが「The Change Monster」というTransformationの本を出しました。日本語版には「なぜ改革は挫折してしまうのか?」という非常に悲劇的な副題が付いており、巻末付録には日本の改革を阻む「モンスター」たちが、その口癖と共にポケモン的なイラスト付きで紹介されています。

 この世の意思決定は数学の証明ではないので、ほとんど全ての判断には、やるべき理由と、やらなくてもいい理由が存在します――そんなのは前例がない、誰が責任を取るのか、もっと考えるべきだ……そんな言葉によって、絶壁に挑む変革者たちは、簡単に潰されていってしまいます。トランスフォーメーションって、本当はそのくらい難しいことです。それがゆえに、本気で企業を変えたいと思っている経営者は、相応の覚悟を持ってリーダーを選び、責任と権限を与えることで不退転の覚悟を持たせ、その伴走者として高額のフィーを払ってコンサルティング会社の支援を仰いだのです。

 話を現代に戻します。それほどまでに難しい「トランスフォーメーション」に、魔法の言葉「デジタル」が付いただけで簡単になるのでしょうか。そうだと嬉しいのですが、残念ながらたぶん違います。実態は、デジタルという武器を手にした新規参入者の侵食によって苦しむ伝統的大企業が、デジタルの「目に見えるクイックヒットが打ちやすくなった」という効用に希望を見出し、トランスフォーメーションを意識する人が増えたのだと思います (自社のDXを謳っているベンチャーはいませんよね)。

 見た目にも派手な成果が出れば、それが改革の狼煙となります。初手で成果が出れば、最初は様子見だった周囲の人たちも、ゴールドラッシュのように集い、口々に「デジタル」と歌い出します。それを本当の「トランスフォーメーション」につなげていけるのかは、その会社の実力次第なのでしょう。


DXの狼煙としての"バーチャルイベント"

 最後にちょっとだけ宣伝を。FIXERが提供しているバーチャルイベントサービス「cloud.config Virtual Event Service」は、デジタルトランスフォーメーションをコミュニケーションの軸から実現していくサービスです。

 イベントだけではなく、ショールームやバーチャル店鋪としても使っていただけるこのサービス、OHR改善のために支店を減らしている金融機関さんや、リアルの展示会ができなくて困っている製造業さんなど、さまざまな活用が考えられます。

 このサービスが、みなさんの会社にとってのDXの狼煙となれれば嬉しいですが、一つの可能性として議論するだけでも、DXのアイデアが生まれるかもしれません。最初に申し上げた岡安なりのDXの定義--「単なるオペレーションの改善ではなく、あらゆるレイヤーに変化をもたらす」「新しい製品・サービス・ビジネスモデルなどを通じて、新しい価値を創出する」というのがどういうことなのか、考える補助線になればと思います。もしご興味あれば、FIXERのWebサイトからお問い合わせ下さい!