【第35回 高専プロコン松江大会参加レポ】ICTで環境問題に挑む高専生の技術とアイデア
2025-10-14
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はじめに

先日、島根県松江市で開催された「第36回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)」をFIXER社員として参戦してきました。

私自身、学生時代に高専プロコンの課題部門に出場した経験があり、毎年、全国の高専生がどのような作品を創り上げてくるのか、OBの一人として注目しています。

今年の課題部門のテーマは「ICTを活用した環境問題の解決」。社会的に重要性の高いこのテーマに対し、高専生たちがどのような技術とアイデアで向き合うのか。特に思い入れのある課題部門を中心に、各高専のブースを訪問してきましたので、そのレポートをお届けします。

今年度の課題部門・本選参加作品一覧

全国の予選を勝ち抜いた、個性豊かな21作品が松江に集結しました。

  • 【舞鶴】 AQUARIU MOTION
  • 【舞鶴】 BAMBOT [竹の遠隔伐採システム]
  • 【鳥羽商船】 しらせーる [持続可能で環境配慮型のシラス漁支援システム]
  • 【東京】 やまみるくん [六脚ロボットによる山間部・森林環境監視システム]
  • 【大阪公大】 EAT & GO [食べて終わりにしないリサイクルの道へ]
  • 【大島商船】 コケミーム
  • 【明石】 Pick & See
  • 【松江】 地産地救
  • 【松江】 Visual Street Kousa [見える、黄砂。]
  • 【阿南】 パラシェア [傘をシェアする新しいあたりまえ]
  • 【香川(高松)】 もりもり Plant [あなたの家を簡単にスマートハウスへ]
  • 【阿南】 ECOビニ [コンビニから食料廃棄の削減へ]
  • 【国際】 あにまる〜と [あなたの狩猟をアプリが支える]
  • 【一関】 MemoriBox [感情も交換する、ちょっと不思議な無人店]
  • 【香川(詫間)】 Sakurami [桜をみんなで見守り、未来に導くシステム]
  • 【沖縄】 エコジュール [スケジュール管理と共に手軽なエコ活]
  • 【豊田】 エネまるクラフト [デジタルツインで学ぶ再生可能エネルギー]
  • 【香川(詫間)】 UNDO
  • 【宇部】 Null-Oto [ソフトウェア型ノイズキャンセリングアプリ]
  • 【弓削商船】 Ki Wi [Keep Info With Integrity]
  • 【茨城】 KIKORI GLASS [ARを用いた林業教育アプリ]

私が訪問したブースの紹介

数ある作品の中から、私が実際にデモンストレーションを拝見し、学生たちからお話を聞くことができたブースを紹介します。

【舞鶴高専】 AQUARIU MOTION

学生寮における水・電気の無駄遣いを課題とし、個々の節約行動を可視化することで行動変容を促すシステムです。個人の節約量は自身のスマホアプリ内の「me水槽」に、フロア全体の成果は共有スペースのプロジェクターに投影される「Link水槽」に反映されるという、ゲーム要素を取り入れたアプローチが特徴です。開発で大変だったのは、プロジェクターでの投影部分だったとのこと。特に感心したのは、プレゼンテーションでの「システム自体の電力消費」という指摘を想定し、何人の節電協力でシステム費用をペイできるかという試算を事前に用意していた点です。準備の質の高さを感じました。自分も高専寮で生活していた時期があり、電気・水道代を個人で払うことがなかったので無駄遣いをしていた節があり、このブースをみて反省しました笑

【舞鶴高専】 BAMBOT [竹の遠隔伐採システム]

放置竹林問題に対し、誰でも安全かつ簡単に遠隔操作で竹を伐採できるロボットシステム。AIが伐採対象の竹を強調表示し、倒れる方向を予測することで安全な作業を支援します。3Dプリンタや市販品を改造して作り上げたハードウェアは、ロボコンの機体を彷彿とさせる完成度でした。開発チームによれば通信周りの開発が複雑で大変だったそうですが、ハードとソフトのチームが並走して一つのプロダクトを創り上げる開発スタイルは、高専ならではの強みであり、非常に興味深く拝見しました。放置された竹の伐採はコストがかかる上に利益を見出すことが難しいとのことで、このような無人システムのような発想が竹害解消の一助となって欲しいと思います。

【鳥羽商船高専】 しらせーる [持続可能で環境配慮型のシラス漁支援システム]

漁師の経験と勘に依存しがちな漁業に対し、操業情報や海洋データをAIで分析し、最適漁場を予測するシステムです。持続可能な漁業の実現を目指すという明確な目的を掲げています。燃料節約と漁獲量増加というゴールに対し、データ収集から活用まで一貫したプロセスが構築されており、システムの完成度の高さと実用化への期待を感じさせる作品でした。ヒートマップと位置情報から、漁獲量と燃料消費のバランスを加味した3つの漁場を提案してくれるUIがとても秀逸で、漁師の方がスマホで利用される姿が容易に想像できる完成度で感銘を受けました。

【一関高専】 MemoriBox [感情も交換する、ちょっと不思議な無人店]

単なる中古品取引ではなく、「モノに宿る記憶や感情」も一緒に交換するという、新しいリユースの形を提案する無人店舗システムです。AIとの対話を通じて出品者の思い出を「Memori」として引き出し、購入希望者に伝えます。GPT-4.1を用いたプロンプトエンジニアリングによる自然な対話設計は非常に現代的でした。アバターの唇の動き(リップシンク)を声に合わせる開発に苦労したそうですが、その甲斐あって、温かみのあるテーマが際立つプロダクトに仕上がっていました。

【香川(詫間)高専】 Sakurami [桜をみんなで見守り、未来に導くシステム]

桜の保全における人材・資金不足という課題に対し、センサーによる樹木の状態監視と、一般ユーザーが写真投稿などで参加できるコミュニティ機能を組み合わせた地域一体型のシステムです。一般ユーザーを巻き込む参加型の設計思想に感心しました。センサーからのデータ取得周りの実装には苦労したとのこと。洗練されたロゴデザインなど、細部へのこだわりも作品の質を高めていると感じました。

【豊田高専】 エネまるクラフト [デジタルツインで学ぶ再生可能エネルギー]

小学生向けの環境教育教材として、人気ゲーム「Minecraft」の世界に再生可能エネルギー発電の概念を導入したシステムです。物理的なM5Stackモジュールと連携し、デジタルツイン上で体験的に学べる点が特徴です。Minecraftのデザインを取り入れたM5StackのUIが秀逸で、実際に小学生が自ら工夫を始めたというエピソードから、教材としての有効性が伺えます。Mod開発でAPIから外部情報を取得する実装も技術的に興味深い点でした。

【香川(詫間)高専】 UNDO

うどんの茹で汁に含まれるでんぷんによる水質汚染と、うどんの食品ロスという、香川県ならではの課題に着目した作品です。水質調査やフードシェアリング機能をアプリで提供し、環境負荷と食品ロスの両方を削減することを目指します。うどんの茹で汁が環境問題に繋がるという着眼点に、これまで意識したことのない視点を与えられました。地域に根差した課題設定として非常にユニークです。環境に配慮することが出来たお店を地図上で表示されるシステムは、うどん店が非常に多い香川県において店選びのポイントとなり、各店舗としても参加するモチベーションになるのではないかと思いました。

【阿南高専】 パラシェア [傘をシェアする新しいあたりまえ]

大量廃棄されるビニール傘に対し、「廃棄予定の傘」を資源と捉え、QRコードで管理・シェアする仕組みです。この「廃棄予定の傘」というテーマ設定が秀逸で、「紛失・破損・窃盗」といったシェアリングサービス特有の懸念点を前提の時点で解消しています。この構造の強固さが、システム全体を非常に堅牢なものにしていると感じました。スポンサー制度や傘の追跡機能など事業拡大を見据えた工夫も盛り込まれており、UIやロゴなどの各所のデザインがかわいらしく、とても好みでした。今回回訪問した中で個人的に最も印象に残ったブースがこの「パラシェア」です。ぜひ徳島から全国へ、このプロダクトを展開させていただきたいと思いました。

おわりに

今年の高専プロコンも、高専生の持つ高い技術力と柔軟な発想力に触れることができる、大変有意義なイベントでした。 社会課題への深い洞察に基づき、AIやIoT、デジタルツインといった技術を的確に応用し、ハードウェアとソフトウェアを融合させて具体的な解決策を提示する。その一連のプロセスが、高専の良さであり、懐かしい気持ちと共に大きな刺激をいただくことができました。

 発表された学生の皆さん、素晴らしい作品をありがとうございました。そして、本当にお疲れ様でした。

高専プロコンでの経験をバネに、さらなる技術力の向上・チーム活動の推進を応援しています!